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AA研特別展示「静謐なる聖地」―パレスチナ・レバノン、160年の記憶

2013.06.02 掲載

5月12日から、6月20日までの間、本学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)1階展示室にて企画展示「静謐なる聖地—多才なオランダ人元将校が踏査し、描いた地域の風貌」が開催されています。今回のTUFS Today ではこの貴重な展示会についてご紹介いたします。ここをご覧になったあとは、ぜひ、展示会に足をお運びください。6月20日までのウィークデー、10:30~17:00の間、皆さんをお待ちしています。

まずは、一枚・・・。

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この印象的な光景は、ベイルートの南方、シドンという町の近くを流れる川のものです。当時、この地を調査したオランダ人が描いたもの。そして、下は現在のこの付近の光景です。

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もう一つ、お見せしましょう。こちらは、パレスチナのナーブルスの、かつての光景です。

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現在は、パレスチナ自治区の中北部に位置する中心都市のひとつです。

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このように、この展示の魅力のひとつは、160年前の風景と現在を比べることができるという点です。パレスチナ問題やレバノン紛争など、困難の状況の続く地域ですが、そこに描かれている光景には、凛とした静けさがただよっています。「静謐なる聖地」という今回のタイトルは、そのイメージから名づけられました。

さて、この企画展示「静謐なる聖地」は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)が所蔵する稀覯資料C. W. M. ファン・デ・フェルデ著 『イスラエル地方−シリアとパレスチナの写生百景−』という本から、33点を高精度デジタル撮影し、高品位の複製を作成して展示するものです。この本は、1857年にパリで出版され、100点に及ぶリトグラフ(石版画)を収めています。

著 者のシャルル・W・M・ファン・デ・フェルデ(1818-98)は元オランダ海軍の軍人で、1839年から2年間、当時オランダ領だったインドネシアの ジャカルタに赴任しました。そこで、測量や地図作成の技術を学びました。、芸術的才能に恵まれたファン・デ・フェルデは、その才能をいかし、詳細で美しい 風景画も残しています。その後、聖地の調査に集中するために海軍を退官し、1851年から52年まで、現在のレバノンからパレスチナにかけての地域を踏査 しました。そして、その記録として出版されたのが、この書です。

訪れた人を歴史の旅への誘うこの展示について、準備にあたってこられた本学アジア・アフリカ言語文化研究所の黒木英充先生(K)、錦田愛子先生(N)ににお話しを伺いました。

この展示会の魅力を、一言でご紹介くださいますか?

K & N:パレスチナとレバノンという、とかく戦乱と流血の場とのイメージがもたれがちな地域が、実際にはどんなところなのか、160年前はどんな姿だったのか、について手がかりが得られることでしょう。私たちは展示品のリトグラフから立ち上がるイメージを『静謐』という言葉で表現しました。

展示の準備にはご苦労があったことと思います。とくにどんな点に苦労されましたか?

N:画の解説は、旅行記として書かれているのですが、キリスト教の知識がないと理解できない表記も多く、展示ではそれをいかに読みやすくまとめるか工夫 したつもりです。また現在の写真については、紛争の現実を描きつつ、自然の美しさや生活の雰囲気を出せるように解説を考えました。

K:本当は100点すべてを展示したかったのですが、スペースの関係で数が多すぎるので3分の1しか選べなかったことです。解説文のフランス語原文の翻訳を小田淳一教授に、実際の展示を中村恭子特任研究員にお願いしましたが、みなさんお忙しい毎日の中で時間をやりくりして短期間で開催にこぎつけてくれました。

現在の写真も楽しみのひとつです。先生方が、実際に、画が描かれた場所のいくつかに行かれて写真をとられたわけですが、どんな感慨をお持ちになりましたか?

N:画が描かれた当時は、これらの地域には国境もなく自由に移動が可能だったわけですが、現在カメラを構えて行こうとすると、対象地域はレバノン、シリ ア、イスラエル、パレスチナ自治区に分断されています。同じパスポートでは越えられない国境もあるし、現地の住民には通れない検問所もあります。撮影は、 我々が外国人だからできたことだなと感じました。

K:描かれた場所の特定が難しいし、たとえ特定できても建物が視界を遮って、同じ景観を目にすることができないことが多々あります。今回の展示の他にも中東で19世紀に描かれた画の現場に行って写真を撮ったことがありますが、今回の展示品は非常に写実的です。しばしば画家は1枚 の紙のスペースにその景観を美しく印象的に納めようとして、そしてもちろん画家にはそうする権利があるのですが、写真とはずいぶん違った形で強調されて描 かれることが多いのです。逆に言うと、写真に全部納めようとして撮るとつまらない構図になる。今回はそれがあまり感じられませんでした。

来場される方には、どんなところに注目して頂きたいでしょう?

K & N:まずは虚心坦懐に画をご覧頂きたいと思います。そのうえで、この地域の現在について改めて考えて頂きたいと思います。

そうですね、まずは絵の静謐な空気にふれ、そしてこの地の過去と現在に思いを巡らしたいものです。会期は、6月20日まで。是非、お越しください。

詳細は、こちらのサイトからご覧ください → 特別展サイト