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国際日本研究の息吹―日・中・韓・台の大学院生ワークショップ

2013年9月2日掲載

国際日本研究センターでは、2013年7月31日から8月2日までの3日間、第2回目の夏季公開セミナー、2013「言語・文学・歴史―国際日本研究の試み」を開催し、その一部として、海外の大学院生と本学の大学院生らによるワークショップを開催しました。

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このワークショップは4つのセッションに分かれ、2会場で19報告が行われました。いずれのセッションにも多くの聴衆の参加をいただき、活発な質疑応答が行われました。院生の皆さんがフロアからの質問や厳しい指摘に応えつつ、日に日にたくましくなっていく姿は、頼もしいものでした。3日間のワークショップや懇親会での対話を通じ、日本研究を志す韓国・中国・台湾・日本の大学院生の間には、強い交流の絆が生まれたようです。

内容的にも、世界の視点から日本をとらえようとする国際日本研究への若い息吹の感じられる発表が並びました。驚かされるのは、韓国・中国・台湾の大学で学ぶ皆さんの研究水準、そして高い日本語能力です。日本研究の共通の磁場が形成されていることが実感されました。

今回のTUFS Today では、そのワークショップをとりあげ、国際日本研究の新しい地平を開く、若々しい研究の数々をご紹介します。

■「言語」第一セッション

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  1. 片山晴一(東京外国語大学大学院博士後期課程)
    「日本語における移動手段の表現――中国語との対照から」
  2. 張志凌(東京外国語大学大学院博士後期課程)
    「複合動詞「~こむ」の副詞的意味について」
  3. 朱炫姝ジュヒョンジュ(筑波大学大学院博士後期課程)
    「日本語授受表現と韓国語授与動詞の体系に関する対照研究-『韓日並列コーパス』を用いて」
  4. 孫 斐Sun Fei(北京大学大学院博士後期課程)
    「日本語のテクレルと中国語の「让你」――説明文における無情物が主語の場合を中心に」
  5. 孟会君Meng Hui Jun(北京外国語大学日本学研究センター博士コース)
    「日本語におけるサ変複合動詞二重ヲ格構文について」

—司会の谷口龍子先生から一言—

「言語」セッションでは、日本語学1名、中国語、または韓国語の対照研究4名、計5名の発表が行われました。

片山さんは、日本語と中国語の移動表現について比較対照し、日本語の移動手段は、「自転車で行く」のように「デ格」が使われるが、中国語では、「自転車に乗って公園へ行った」のように二つの動詞の組み合わせが成り立つために、中国語を母語とする日本語学習者は「*自転車で乗って行く」のような誤用が生まれやすいことに言及しました。

同じく張志凌さんは、複合動詞の後項動詞に使われる「~こむ」の副詞的意味についてプラス・マイナス評価、移動、状態変化などの観点から分類しました。

ジュ・ヒョンジュさんは、日本語の授受表現と韓国語の授与動詞の体系を比較し、「~てもらう/ いただく」は韓国語では補助動詞として直訳できず、本動詞として使われる点などが観察されました。

孫斐さんは、女性雑誌のデータをもとに、日本語の「~てくれる」が中国語の“让你”に訳されることが多く、「~てくれる」と”让你”のいずれも読み手の立場に立ち、前景化されている点を指摘しました。

孟会君さんは、「指導徹底したい」のような日本語のサ変複合動詞の二重ヲ格構文が、政治や文学など特定分野で多く見られる点を指摘し、その理由として丁重さや重々しさなどの表現効果が考えられることを指摘しました。

このように日本語の文法や語彙について興味深い点に目をつけた研究が多く、有意義な会となりました。当日は30名以上の参加者があり、学生や教員から活発な意見やコメントが出され、盛会のうちに幕をとじました。

■「文学」セッション

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  1. 藤井嘉章(東京外国語大学大学院博士前期課程)
    「本居宣長の注釈における俗言」
  2. 李智賢Lee Gee Hyun(韓国外国語大学校大学院修士)
    「『源氏物語』における「梅」のイメージ」
  3. 徐廷瑋Syu Ting Wei(国立台湾大学大学院博士前期課程)
    「『国性爺合戦』『国性爺後日合戦』に見る近松の父親像」
  4. 張芸Zhang Yi(東京外国語大学大学院博士前期課程)
    「文学作品解読における権威への挑戦――夏目漱石と意識共同体」
  5. 陳璐チン ロ(東京外国語大学大学院博士前期課程)
    「北村透谷試論――琴と自然をめぐって」
  6. 南徽貞ナムフィジョン(東京外国語大学大学院博士後期課程)
    「1970年代の日韓文学の諸相――大江健三郎と李清俊」

—司会の友常勉先生から一言—

「文学」のセッションは多彩な報告タイトル通りに、さまざまな文学研究の対象・方法・視点が交差しました。「日本研究」を一つの糸にして、時系列に従った報告順を考えてみましたが、発表の多彩さ故にそれはかないませんでした。しかし、ほとんどの報告者は制限時間をきちんと守り、厳しい質問・意見にも真摯に答えようとしていた点で好感がもてるものでした。

分厚い先行研究の咀嚼と手堅い方法論を必須とする本居宣長、国姓爺合戦、源氏物語などの古典の大きなテーマを扱った報告は、いずれも聞きごたえのあるものでした。

一方、漱石、透谷、大江健三郎、李清俊といった近現代文学の巨大な山脈への挑戦は、常に新たな方法論が飛び交う領域であり、さらに現代という時間を相対化する必要がありことから、挑戦的なテーマといえるでしょう。議論や白熱したのはこれらの分野の発表でした。

なじみ深いテーマも、新たな分野への開拓も、相互に刺激になったと思います。急ぐことはありませんが、この経験を糧にして、さっそく次の準備にとりかかってほしいと願っています。

■「言語」第2セッション

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  1. ツォイ・エカテリーナ(東京外国語大学大学院博士後期課程)
    「現代の茶席の会話におけるポライトネス研究」
  2. 崔英才(東京外国語大学大学院研究生、千葉大学大学院博士前期課程修了)
    「電話問い合わせの談話の展開――全体構造と情報部の談話進行」
  3. 申鉉珍(韓国外国語大学大学院)
    「副詞マサカの意味用法――使用場面を中心に」
  4. 李国玲(筑波大学大学院博士後期課程)
    「日中「不満表明行為」に関する対照研究――「行動の仕方」を形づくる諸要素について」

—司会の坂本惠先生から一言—

第3セッション「言語2」では、前日の文法、語彙中心の言語研究とは異なり、語用論、社会言語学関係の発表が中心でした。

本学大学院生のウズベキスタン出身のツォイさんの発表は現代の茶席という普通の日本人も余り参加しないような場面で行われている会話を分析、考察したものですが、実際には形式的な会話だけでなく、雑談もあり、その違いをディスコース・ポライトネス理論という最新の理論で分析したものです。

本学の崔さんの発表は電話での問い合わせの談話が日本人と中国人ではどのように違うのかを分析するために、まず、中国人日本語学習者が日本語で問い合わせ、日本語母語話者がそれに答えるという談話を分析したものです。

韓国外大からの申さんの発表は「マサカ」という副詞を、どんな場面で使用されるかという観点から分析したもので、語用論という分野の研究になります。

筑波大の李さんの発表は、寮の隣の部屋がうるさい時にどのように苦情を言うのかについて、日本人と中国人の違いを分析したものです。日中にかなり大きな違いが見られるようです。

日本語の研究と言っても、最近では文法など、ことばそのものの研究だけではなく、このような、どのように話すか、どのような特徴があるかについての研究が盛んになっています。非日本語母語話者による4本の研究発表に、会場を埋めた40名ほどの聴衆は熱心に聞き入り、発表後の質疑応答も活発でした。どの発表者も流暢な日本語で、日本語の使い方に関する研究の成果を自信を持って披露する姿に、聴衆は感銘を受けたようです。聴衆の中には大学院生、他大学の研究者に加え、一般の方もいらっしゃいました。相手の発言を「マサカ」と言って否定するような使い方は自分はしない、以前にはなかったという一般の方からの指摘は新鮮で貴重なものでした。今回のような開かれた研究会ならではの一面だったと思います。休憩時間、その後の懇親会でも活発な意見交換が行われました。

■「歴史・社会」セッション

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  1. 臼井直也(東京外国語大学大学院博士後期課程)
    「海外における日本アニメ受容の通時的分析の基礎研究――大藤信郎作品が近年のアニメ人気に与えた影響に関する一考察」
  2. 簡孝阡Chen Shiau Chian(国立政治大学大学院修士課程)
    「日本アニメにみる理想の家族像――『サザエさん』を例に」
  3. 許文英キョブンエイ(東京外国語大学大学院博士前期課程)
    「徳島藩蜂須賀重喜の隠居政治――公家との姻戚関係を通して」
  4. 飯倉江里衣(東京外国語大学大学院博士後期課程)
    「日本の植民地支配下における朝鮮人の軍事的敵対関係――「満洲」抗日パルチザン/満洲国軍の朝鮮人を中心に」

—司会の前田達朗先生から一言—

「歴史・社会」セッションの報告のうちの2つは、いまの「日本」への興味、ひいては日本研究の趨勢を投影して、サブカルチャー・ポップカルチャーからの報告でした。臼井報告は日本アニメ映画の草分け・大藤信郎についての貴重な報告。そこからの知見を、日本語教育にも役立てていこうというのが、報告者の狙いです。簡報告はマンガ「サザエさん」を対象とした研究。「サザエさん」が戦後日本を分析するための好個の対象であることが改めて示されました。

許報告はお家騒動の事例を通じ、公家-武家の政治文化を解明しようとした発表でした。活発な質疑があり、それを通して問題の所在が明確になっていきました。それはワークショップならではの、とても知的な共同作業だったように思います。

飯倉さんの植民地研究の報告は、きわめて丁寧な文献調査と現地のフィールドワークで構成されたもので、すぐれたものでした(なお、飯倉さんの報告は時間の関係で「文学セッション」の場で行われました)。

院生の皆さんの研究には、発展途上だからこその情熱が感じられました。制限された時間の中での報告という挑戦で、どれだけの議論を巻き起こせるのかは、研究に対する真摯さと情熱にかかっています。皆さんの今後の発展を期待しています。