Skip to content

東京外国語大学出版会、5年の軌跡

2013年8月15日掲載

2008年10月に創設された東京外国語大学出版会は、そろそろ5年を迎えようとしています。今回のTUFS Today では、その5年の軌跡を振り返ります。

写真  IMG_1833  出版会編集室はアゴラグローバル2階にあります。

出発は、亀山郁夫前学長の「夢」

「私の年来の夢だったんだ。本学に出版会をつくりたい。」

2008年、亀山郁夫前学長のこの思いから出版会の歴史がはじまったことは、本学ではよく知られています。売上が落ち込み、大学出版会だけでなく、出版業界全体が岐路に立たされていることは周知のなか、この夢は少々無謀にも思われましたが、そこは、果敢に「夢みる」亀山先生。多くの仲間を引き込み、無謀な夢を現実のものとすることに成功しました。

実際の立役者は、発足時から出版会をひっぱる岩崎稔編集長と本学の教職員からなる編集委員、出版会事務局のみなさん。そして、出版会の基礎づくりに奔走してきた頼りになるひとりの編集者の存在です。小さな所帯ながら、学内に設置された大学出版会として、全国でもユニークな位置を築きつつある東京外国語大学出版会は、こうして5年前に出発しました。

外大らしさ、手作り、そしてプロの仕事

東京外国語大学出版会のモットーは、本学の研究と教育の成果を形にするという使命を担っていくこと、そして、みずからエディターシップを発揮し、自分たちの手で本をつくるという点です。編集委員会の教職員は、企画の立案と調整にとどまらず、査読や校正実務などを分担しています。編集作業は編集者の竹中龍太さんをはじめ、後藤亨真さん(2013年6月末まで)、新任の土岐葉子さん、石川偉子さんらスタッフがあたっています。丁寧な編集と、間村俊一さん、桂川潤さんら第一線で活躍されている装丁家の手がける美しい装丁は、東京外国語大学出版会の本の特徴です。

こうした生み出されてきた18冊の単行本には、ひとつひとつ思いがこもっています。ここでこれまでに出された本を、年ごとに並べていきましょう。

●2008年度に出た本

02 今福龍太著 『身体としての書物』

01  柴田勝二著 『中上健次と村上春樹──〈脱六〇年代〉的世界のゆくえ』

●2009年度に出た本

03亀山郁夫著 『ドストエフスキー 共苦する力』

04-thumb 留学生日本語教育センター指導書研究会編 『直接法で教える日本語』

05 ベルジュロ伊藤宏美、鶴田知佳子、内藤稔著 『よくわかる逐次通訳』

●2010年度に出た本

07 アジア・アフリカ言語文化研究所編 『豊饒なるエジプト1841-44──フランスのエジプト学者プリス・ダヴェンヌの石版画より』

open field ジリアン・ビア著/鈴木聡訳 『未知へのフィールドワーク──ダーウィン以後の文化と科学』

panda jacket-a プラープダー・ユン著/宇戸清治訳 『パンダ』

●2011年度に出た本

英作文なんかこわくない 猪野真理枝、佐野洋著/馬場彰監修 『英作文なんかこわくない──日本語の発想でマスターする英文ライティング』

アンナ アンナ・ヴェジビツカ著/小原雅俊、石井哲士朗、阿部優子訳 『アンナ先生の言語学入門』

arabu 酒井啓子編 『〈アラブ大変動〉を読む──民衆革命のゆくえ』

●2012年度に出た本

tounanajia 床呂郁哉、西井凉子、福島康博 編『東南アジアのイスラーム』

ratenamerika フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ、エンソ・ファレット著/鈴木茂ほか訳 『ラテンアメリカにおける従属と発展──グローバリゼーションの歴史社会学』

img04089 蔣廷黻著/佐藤公彦訳 『中国近代史』

img07279 武田千香著 『千鳥足の弁証法──マシャード文学から読み解くブラジル世界』

20130401 沼野恭子、匹田剛、前田和泉、イリーナ・ダフコワ著 『大学のロシア語Ⅰ──基礎力養成テキスト』

●2013年度に出た本

20130402 八木久美子、青山弘之、イハーブ・アハマド・エベード著 『大学のアラビア語 詳解文法』

法言語学入門-1 ジョン・ギボンズ著/中根育子監訳/鶴田知佳子、水野真木子、中村幸子訳 『法言語学入門──司法制度におけることば』

現代社会、文学・文化、言語

このリストからわかるように、東京外国語大学出版会が出す本は、現代社会、文学・文化、言語に、広く及んでいます。まさに本学の教育・研究の見取り図です。今後の出版計画も目白押し。この秋には、次の本の刊行が予定されています。

青山弘之、イハーブ・アハマド・エベード著 『大学のアラビア語 表現実践』

ハナーン・ラフィーク、吉田昌平著 『大学のアラビア語 発音教室』

荒川洋平著 『デジタル・メタファー』

八尾師誠、吉田ゆり子、千葉敏之編 『画像史料論』、など

どうぞ、ご注目ください。

もう一つの顔―ピエリア

pieria cover2009 pieria_cover_2010 ブログ_ピエリア2011

2012pieria IMG_2013

東京外国語大学出版会のもう一つの顔は、毎年春に発行している読書冊子「ピエリア pieria」です。これは、出版会と本学附属図書館が共同で企画し、無料で配布している小冊子で、本学附属図書館や本学生協ほか、首都圏を中心とした新刊書店・古本屋にも置かれています。

読書冊子「pieria 新しい世界への扉」(2009年春号/通巻1号)

読書冊子「pieria 未知との遭遇のために」(2010年春号/通巻2号)

読書冊子「pieria 発見と探究への誘い」(2011年春号/通巻3号)

読書冊子「pieria 新しい世界との邂逅」(2012年春号/通巻4号)

読書冊子「pieria ことばから広がる世界へ」(2013年春号/通巻5号)

最新の第5号では、毎巻恒例の「新入生にすすめる本」のほか、本学教員らによる「知の原点と出会う」、「フィールドノート」などのエッセイ、また在学生や留学生によるおすすめ本の紹介などを掲載しています。ぜひ手にとってみてください。なお、1号から3号までは、上記のリンクからネット上でも読むことができます。

本づくりを学ぶ学生たち

さらに、もうひとつ、東京外国語大学出版会ならではの取り組みがあります。それは、出版会の活動に本学学生の参加を促していることです。

実際、本学のアゴラグローバル2階にある出版会のオフィスには、教員や職員だけでなく、書物や出版に興味を抱く多くの学生も多数、出入りしています。学生の活字離れが危惧される現在、出版会は、学生の皆さんにとって、ちょっとした異郷のようです。

異郷への入口は、ふたつ。一つは、総合科目として開講されている「日本の出版文化」という授業です。この授業は出版文化を多面的に考えることを目的に開講され、毎年300名近い履修者を集めています。講義はゲストも含むリレー講義形式で、これまでに筑摩書房、みすず書房、平凡社、青土社、月曜社、東京大学出版会などのベテラン編集者(現役、出身者を含む)や装丁家、そして紀伊國屋書店のカリスマ書店員などが教壇に立ちました。もちろん、岩崎編集長の口からは東京外国語大学出版会の経験も語られます。

もうひとつは、設立2年目からはじめた「出版実務研修会」です。将来は出版の世界で働きたいと考えている学生を募り、数人規模の枠ではじめました。本づくりや出版業界にかんする基礎的レクチャーののち、東京外国語大学出版会で編集の実務を体験するだけでなく、他の出版社、書店、印刷会社など現場への見学ツアーも実施しています。今年も、募集中です。

→ 申込み詳細はこちら

この「日本の出版文化」授業と「出版実務研修会」を通じ、多くの学生が出版会に興味をもってくれました。彼らは、サポート部隊として出版会が忙しいときには駆けつけてくれています。そのなかには実際に出版業界へ就職した学生もいます。彼らのこれからの活躍が楽しみです。

最後に、編集長からひと言

岩崎稔編集長からのコメントです。

作る側になったことで、本にたいする見方が格段に豊かになりました。本の内容もさることながら、活字のかたちや紙の風合い、物としての手触りやかたちそのものに敏感になりました。また、本が世のなかに出たあとの取次、書店、そしてその書店の棚、さらには返品という過程まで含めて、人文知と社会とのかかわりを常に考えるようになりました。本づくりのプロセスが、ひとつの循環として見えてきたのです。それとともに、こうした循環をたどりながら市民社会の血流となっている出版という文化を、これからどのように守り、育てていくべきか、という意識も強くなってきました。人文学の危機、人文知の崩壊が叫ばれるなかで、あえて、大学出版会をつくり、それを拠点にすることで、大学やその周辺に波風を立ててみるというのは、これでなかなか戦略的におもしろい、というのが、わたしたちの最大の発見です。

東京外国語大学出版会の今後に、どうぞご期待ください。


東京外国語大学出版会のホームページは、こちら